DOTO

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<DOTO>は、道東と呼ばれる日本の北海道東部で撮影された写真で構成されている。

北海道の4割を占める広さと、豊かな自然を基とする農業・漁業・林業・酪農業などの第一次産業が盛んな地域だ。先住民族・アイヌ民族の文化が残ることでも知られる一方、ロシアとの領土問題を抱える北方領土に隣接するなど、歴史的・社会的な背景も持ちあわせ、季節の変化が大きい亜寒帯気候の自然の中で重ねられてきた人々の営みは、都市にはない独自の景観と文化を生み出してきた。

本作は、2016年に東京から道東にある網走市へ移住し、暮らしの中で見られる風景を通して<人の求める豊かさとは何か>という自身の問いをもとに撮影されたシリーズである。

 

初めて道東を訪れたのは2001年から大学生活を送るためで、オホーツク海に面する網走市で4年間を過ごした。

夏から秋にかけて戻ってくる鮭やカラフトマスからは森と川と海の生命サイクルを学び、冬にアムール川から流れ着きオホーツク海を覆い尽くす流氷は、波のない海があることを教えてくれた。人も物も少ない地域だが、大きな季節の変化の中で人の営みや痕跡・動植物が共存している風景に、心が満たされていく<豊かな時間>を初めて感じていた。

その後、2007年に東京の写真専門学校へ入学し、写真活動の拠点として約10年間を東京で暮らした。

経済的な豊かさを持つ大都市には人や物・情報・文化が溢れ、都市ならではの刺激的な日々を送ることができたが、道東で感じていた豊かさを実感することは一度もなく、この大都市での生活が<人の求める豊かさとは何か>という問いを持つきっかけとなった。

2016年、再び網走市に移り住み、<豊かな時間>と向き合い、自分自身が感じたその時間を写真を通して社会に示したいと考え、道東で撮影を行うことにした。

道東での撮影は行動範囲の広さから車での移動を基本とし、気になる場所で車を停めて歩いて探るという作業を繰り返した。時には雪山を登ったり船の上から撮影することもあったが、基本的には一般道とその周辺、人の生活圏内を中心に撮影した。

撮影の際は人に声をかけたりせず、動植物と同じように道東の風景の一部として撮るようにしていたが、それは人も動植物も同じフィールドで生きている共存者であり、そのあり方が尊く豊かだと考えているからである。その場からただ眺めるように眼前の風景を撮ることで、私が何と向き合っているのかを表現したかったのだ。

モノクロームでの撮影は、色を排除することで被写体の存在感や本質を浮き上がらせるための選択だ。使用した中判フィルムカメラはよく寒さで通電しなくなったため、機体に防寒のシールをベタベタと貼って懐で温めながら撮影を繰り返した。北海道はヒグマの生息地であるためクマ撃退スプレーを持参して怯えながら撮影することもあったが、巨大な自然の中に飛び込むいち動物として、生きてその場に立っているという実感に心の豊かさを感じていた。

 

7号まで刊行している写真冊子『DOTO』は、一定期間の撮影後、本にして写真展を行うサイクルを続けたものである。各号直近の写真をまとめアーカイブすることで、自分が向き合っているものを確認し、次へ進むための必要な行為であった。小部数で簡易的な印刷・装丁ではあるが、写真展の来場者に展示体験だけでなくその地域を収めたものも持ち帰ってもらい、本という飛び道具が時間も場所も超えて誰かに届くのだという思いから4年間続けてきた。

喧騒と共に目まぐるしく輪郭を変化させる都会の生活と違い、広大な自然の中でも存在感を示す動植物や音が雪に吸い込まれた静寂の景色、その自然の中で日々続く人々の営みは、私に〈豊かな時間〉を気づかせてくれた。物質的な豊かさや便利さだけが豊かな時間を与えるのではなく、こう言った自然の中にこそ豊かさがあるのではないかという思いを込めつつ制作した〈DOTO〉の写真を通じて、鑑賞者にとっての豊かさとは何かということに向き合う時間を提供したいと考えている。